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新着情報

板谷がSBCニュースワイドで取材を受けました
2015-11-16
平成27年3月に佐久市で発生した交通事故に関する刑事事件(執行猶予判決が確定)につき,板谷が第三者の立場の弁護士として取材を受け,11月16日に放映されました。

放映時間の関係や話し下手なせいで,かなりコメントが割愛されて不正確になっていたきらいがありますので,回答した内容を以下に記載させて頂きます。


−−−−−−
1 発覚免脱罪は現状の法律運用では今回のケースでは難しいのか?
難しいと思われます。
(1)自動車運転死傷行為処罰法4条によると,発覚免脱罪(12年以下の懲役)が成立するためには,
?アルコール又は薬物の影響によりその走行中に正常な運転に支障が生じるおそれがある状態で自動車を運転した者であること
?運転上必要な注意を怠り,よって人を死傷させた場合であること(アルコールの影響とは無関係な過失でもよい)
?その運転の時のアルコール又は薬物の影響の有無又は程度が発覚することを免れる目的で,更にアルコール又は薬物を摂取したりその場を離れて身体に保有するアルコール又は薬物の濃度を減少させることその他その影響の有無又は程度が発覚することを免れるべき行為(発覚免脱行為)をしたこと
が必要です。?と?は故意,?は過失という,複合的な条文になっています。

(2)?の要件について
  ?の要件は,同法3条の危険運転致死傷罪(準危険運転致死傷罪と呼ぶ学者もいます)の要件と同じものです。3条の危険運転致死傷罪は,2条の危険運転致死傷よりも1ランク下で,2条(「アルコール又は薬物の影響により正常な運転が困難な状態で自動車を走行させる行為」)ほどの状態ではないものの,危険な状態であるということです。
 具体的には,アルコールによる酔いのために,前方をしっかり見て運転できないような状態や,自分が思ったとおりにハンドルやブレーキを操作できない状態であれば,「正常な運転が困難な状態」であり,そこに至らないまでも,アルコールのために自動車を運転するのに必要な注意力,判断能力,操作能力が相当程度低下していて危険である状態が「正常な運転に支障が生じるおそれがある状態」であると説明されています。
  ただ,こうやって説明をしていても明らかなとおり,かなり内容が曖昧です。もともと,この法案が提出されたときも,「支障が生じる」とか「おそれ」というのが今までの刑法にはなかった類型で,どの程度なのか曖昧だという批判がありました。曖昧な条文というのは,罪刑法定主義に反するものであり,憲法違反になります。
  そこで,何らかの基準(目安)が必要であり,道交法の酒気帯び運転に該当する程度のアルコール保有があれば,この「正常な運転に支障が生じるおそれがある状態」にあたると言われていますが,それ以下の場合は,なかなか立証するのが難しいのではないかと思われます(しかも,「正常な運転に支障が生じるおそれがある」ことについての故意が必要です)。
  今回のケースでは,アルコール保有量が呼気1リットルあたり0.1ミリグラムであったということであり,酒気帯び運転の0.15ミリグラムには該当しません。この程度の数値は,缶ビール1缶飲まなくても人によっては検出されますので,これだけで「正常な運転に支障が生じるおそれ」があるとは言いにくいと思われます。

(3)?について
  さらに,今回の行為が発覚免脱行為にあたるのかが大きな問題です。口臭防止剤を飲んだことが大きく取り上げられていますが,口臭防止剤はアルコールの匂いをごまかすだけで,アルコールの成分を消すものではありません。警察官は鼻でにおいをかいで検査をするわけではなく,きちんと機械を使って呼気の濃度を測定しますので,口臭防止剤を飲んだこと自体は免脱行為にならないと思われます。
  法律制定のときに免脱行為の典型として想定されていたのは,その場から離れて一定程度の時間を経過させ,アルコール濃度を下げるという行為です。今回のケースでは,コンビニに行ったというだけですから,大した時間は経過していないと思われ,これも免脱行為とは言い難いと思われます。

(4)起訴便宜主義
  検察官は,ある罪で起訴することもできますが,起訴しないこともできます。これを起訴便宜主義といいます(刑事訴訟法248条)。
  今回のケースのように,アルコール保有量も低く,免脱行為とは言い難い行為の場合に,あえて発覚免脱罪で起訴して無罪になると,それが判例として残ってしまいますので,過失運転致死だけで起訴したのだと思われます。

2 もし発覚免脱罪の適用があれば,実刑になったか?
  なったでしょう。
  発覚免脱罪に該当すれば,禁固刑ではなく,懲役刑となります。また,被害者死亡という結果の重大性からすれば,まず間違いなく実刑になったと思われます。
  今回は,過失運転致死だけですので,いかに情状でアルコールのことを不利に書いても,執行猶予が付くのは避けられません。(今回の量刑は,執行猶予の上限ですので,裁判官としても,実刑のすぐ手前だということをアピールしたかったものと思われます)。
  (刑法25条 …三年以下の懲役若しくは禁錮又は五十万円以下の罰金の言渡しを受けたときは、情状により、裁判が確定した日から一年以上五年以下の期間、その執行を猶予することができる。)

3 発覚免脱罪について
  危険運転致死傷罪の適用は,アルコールの影響下にあったことを要件としていますが,犯人が逃走してアルコールによる影響の程度が立証できないことがあり,その場合,以前の自動車運転過失致死傷罪と道路交通法の救護義務違反(ひき逃げ)を適用して,上限は懲役15年でした。
  そこで,逃げ得を許さないということで,アルコールの影響により走行中に正常な運転に支障が生じるおそれがある状態で自動車を運転し,過失で人を死傷させた上,さらに発覚免脱行為という悪質性の高い行為が行われた場合に,刑を重くするという趣旨で制定されました。発覚免脱罪は,道交法の救護義務違反(ひき逃げ)が同時に成立することが想定されており,その場合の上限は懲役18年になります。

 これまでの経過は,
?昭和43年刑法改正で業務上過失致死傷罪の法定刑が引き上げられ,
?平成13年刑法改正で危険運転致死傷罪が新設され,
?平成19年刑法改正で自動車運転過失致死傷罪が新設されました。
  しかし,この後も酒気帯びで痛ましい事故を起こしたケースが相次ぎ,悪質な運転で重大な結果を引き起こしたのに危険運転致死傷罪の適用ができないということに批判があり,法制審議会で審議して閣議決定され,185回の国会で成立しました。

  もっとも,この罪については,かなり制定時に批判がありました。発覚免脱行為が悪質とはいっても,本来,証拠隠滅行為を自分のために行った場合は罰せられないのに(刑法104条),この場合だけ重くするのはおかしいとか,今までにない概念の条文であって不明確だなどと言われています。
  また,実際上,この罪を適用できるケースは多くないと思われます。そもそも,発覚免脱行為が行われたのに「アルコールの影響により走行中に正常な運転に支障が生じるおそれがある状態で自動車を運転した」と立証できるケースは多くないと思われます。ベロベロに酔っ払った状態で事故を起こしてひき逃げをしたというのが明らかな場合などに限られるのではないかと思われます。
  アルコールの影響で重大事故が起きているということは事実で,それは大いに非難すべきですが,それを避けるためには,たとえばアルコール検査にパスしないとエンジンがかからないロック装置の導入とか,重罰化ではなく,自主的に通報したり救護したりした場合には刑を軽くするという制度(ドイツ刑法はそうなっています)にしたほうが被害者の救護の可能性が高くなると言われています。
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